WEBでちょい旅 一厘録 ICHIRINROKU

またたび米とぎ笊(福島県)2013.05.28 /zakka

土鍋でごはんを炊くようになって10年。鍋は3代目、おひつは2代目になりました。野崎洋光さんの料理本『おいしいごはんが食べたくなったら。』がきっかけでしたが、炊飯器を捨てて気づいたことは、日本人はずっと昔から、お米をおいしく食べるための知恵や工夫を編み出してきたんだなということ。以来、研ぎ方や保存にも気を遣いたいと思うようになりました。道具もそう。この米研ぎ笊は、雪深い奥会津の職人が編み上げたもの。気張らない姿が、我が家の台所を和ませています。

縄文の手仕事に陥落されるまでの逡巡

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山ぶどう、またたび、ヒロロ、くるみといった素材を使う奥会津三島の編み組細工。その歴史は縄文時代にまで遡ります。荒屋敷遺跡から約1万点もの籠類が出土していることから、少なくとも2300~2400年前には籠や笊といった道具を作りながらこの豪雪地帯に人々が暮らしていたことが分かっています。手仕事の季節はもちろん冬。冬が厳しいからこそ、脈々と受け継がれ磨かれた伝統工芸なのです。
なかでも目を惹いたのが「またたび」。弾力があって水切れの良い笊に仕上がるのが特徴。またたびの編み組細工は全国的にも珍しく、その職人さんは希少になりつつあるそうです。

とは言え、マストバイかどうか実は正直すごく悩みました。自分で言うのもなんですが、私、物持ちは良いほう。一人暮らしを始めた20代の頃に揃えた生活用品の多くが今も現役。物を増やすことが嫌いなうえ、一度手に入れた道具はねちねち使うので、新アイテムが必要になるということが滅多にありません。しかも私の飯炊き工程のなかに、「米研ぎ専用」の笊が必要な理由が見つからず、今ひとつきっかけをつかめずにいたのです。

「家の中には、美しいものと実用性のあるものだけを置くこと」という言葉を残したウィリアム・モリスは、「そのことだけにしか使えない専用の道具というのは醜悪」とも宣うたとか。「うーんどうしよう。私とは縁の無い笊なのか」と笊一つに悩む悩む。「もしかしたらいつか買うかも」と胸ときめいた出会いから3年。しかしやっと思いは成就しました。

洋猫にも通用した「猫にまたたび」

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さてところで、我が家には猫が一匹おります。メインクーンという洋猫で、マタタビ粉末への興味関心はこれまでいたって淡白。キャットニップみたいな横文字でないときっと通用しないのね、洋猫には。と思っていたので、「まあ大丈夫だろう」とこのたび晴れてポチったわけです。が、またたび米研ぎ笊、恐るべしです。開梱する先からフンフンフンフン、スリスリスリスリ。「えーーっ?あーたマタタビ、興味なかったじゃん?」これはうっかり猫の手に届く場所に出してはおけないということが分かったのでした。粉末よりも天然に近いせいでしょうか。メインクーンの故郷もアメリカ北部の豪雪地帯ですから、彼のDNAの琴線に触れたのでしょうか。ふんふん、確かにこの笊、やや独特な香りがします。

実は、前述した荒屋敷遺跡から出土している籠類の多くには根曲がり竹が使われているのですが、奥会津ではいつしか竹以外の素材をよく使うようになったようです。またたびには、水に浸すとしなやかさを増し、編み目が締まるという性質があります。笊に編み上げてから、家の軒先に吊るして寒風で乾燥する「寒晒し」というひと手間をかけると強度がさらに増すとともに、雪に反射した太陽光で漂白され、端正な編み目が織り成す陰影はより一層美しいものとなります。こうしてでき上がった笊は、米や小豆を研ぐのにぴったり。葉物野菜などにも当たりが優しいのです。独特の香りは半年ほどで飛ぶそうです。「カビさせないように手入れするのが大変では」という人もいますが、しっかり乾燥させればいいだけのこと。レンジフードの下に吊るされたコロンと愛嬌のある笊に目を細め、「寒晒し」に思いを馳せる今日この頃なのでした。

ライター:菊池桂

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奥会津ヤマト

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うつわと暮らしの雑貨 なかうえ

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