WEBでちょい旅 一厘録 ICHIRINROKU

大槌復興刺し子プロジェクト(岩手県)2013.05.17 /zakka

天正年間から南部藩(盛岡藩)の港町として栄えた“水産のまち”岩手県大槌町は、三陸のほかの市町村同様、東日本大震災とその後の大津波や火災によって壊滅的な被害を受けた。家や仕事、大切な人を失った大槌の女性たちが、再び歩き出すために始めたのは、日本の伝統工芸「刺し子」づくりだった。

一針から始まる再生への一歩

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手触りのいい綿のふきんやコースター、ランチョンマットにあしらわれた「柿の花」や「七宝つなぎ」といった伝統的な幾何学模様と愛らしいカモメたち。タグの表には「槌」のマーク、裏には「大槌刺し子」とロゴが入っている。この刺し子は、東日本大震災で被災した岩手県大槌町の女性たちが手縫いしたものだ。

2011(平成23)年3月11日に発生した震災で、大槌町は町長を含む町役場職員が津波にのまれ全員行方不明となり行政機能が麻痺、一時は陸の孤島と化す。死者803名(関連死47名)、行方不明者473名(うち死亡届の受理件数433件)と多大な犠牲者を出した(※)。
多くの人が家や職場を失い、家事や仕事に忙しかった大槌町の女性たちも、避難所や仮設住宅での生活を余儀なくされた。それまで過ごしてきたごく当たり前の日常が壊され一変してしまうショックは想像に難くない。

「大槌刺し子プロジェクト」は、この年の6月に始まった。大槌町の女性たちが伝統的な刺し子の技術を使った製品を作り販売するというもの。売り上げから原材料費や諸経費、プロジェクトの運営費を差し引いた分が刺し子さんたちのものになる。
大がかりな道具も広い場所もいらない。布と針と糸さえあれば、避難所や仮設住宅でも作業はできる。手仕事に集中し仲間同士で会話をすることで避難生活の不安や孤独が紛れ、その上、成果が収入となって返ってくるから毎日に張り合いも出る。刺し子づくりは雇用機会の創出や経済的自立の支援だけでなく、意気消沈していた彼女たちが充実感や生きがいを取り戻せる、まさに物心両面の支えとなった。

手仕事のぬくもりが伝わる丁寧な仕上がり

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東北は日本三大刺し子と呼ばれるこぎん刺し(青森県)、南部菱刺し(岩手県)、庄内刺し子(山形県)など伝統的に刺し子が盛んな地方。もともと装飾のためではなく、布地を長く大切に使うために補強したり寒さをしのぐ目的で考えられた、暮らしに根付いた技術ということもあるのだろう。
「大槌復興刺し子プロジェクト」の刺し子たちは年齢も職業もまちまち。中には針仕事に不慣れな人もいて、クオリティは量産の工業品のように均一とまではいかないが、手作りならではの温かみが伝わってくる。もちろん売り物としての一定水準を保つために事前に検品を行っているので安心して購入できる。

届いた商品を見てその丁寧な仕事に驚いた。伝統的技法を用いつつ、さまざまな生活のスタイルに合うモダンなデザインで、かわいらしいけれどファンシーすぎないバランスの良さにさりげないセンスを感じる。柄のモチーフとなっているカモメは大槌町の町鳥。魚の群れを教えてくれる大事な鳥であり、海とともに生きてきた人々の思いが伝わってくるようだ。 もったいなくて壁にでも飾っておきたくなるが、生活道具なのだから毎日しっかり使ってこそ刺し子さんたちを身近に感じられる気がする。そうして一針一針に込められた復興への願いと「生きる」という力強い決意を日々の暮らしの中で共有していくことが、微力ながら復興の一助となるのではないだろうか。

※2013(平成25)年3月31日(災害関連死は2月28日)現在

ライター:和泉朋樹

information

大槌復興刺し子プロジェクト

WEBサイト
http://tomotsuna.jp/
住所
岩手県上閉伊郡大槌町小鎚第26地割字花輪田128番地4
TEL
0193-55-5368(月〜金11:00〜17:00※祝日除く)
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