WEBでちょい旅 一厘録 ICHIRINROKU

ほおずきんちゃん(岩手県)2014.09.17 /food

子どもの頃、実家の裏庭には数株のほおずきが植えられていました。母が「こうやって遊ぶのよ」とほおずき笛の作り方を教えてくれたのですが、「てっきり食べられる実だと思っていたのに。こんなおいしそうなのに食べられないなんて」と食い意地の汚い子どもだった私はがっかり。そんな苦々しい思い出のあるほおずきですが、最近では食用ほおずきというものがあると知り、「やっぱり食べられるんだ!」と食指が動いたのでありました。

イノシトールたっぷりの大人のフルーツ

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母から教わったほおずき笛とは、ほおずきの実を揉んで柔らかくし、薄皮を破かないように楊枝などを使って慎重に中身を抜き取り、口の中に入れたその抜け殻に空気を出し入れして音を出すという遊び。中身を抜いても独特の苦味があり、苦労の割にたいした音が出ず、上達しないうちに口の中でくちゃくちゃになって破けてしまい、今思うと何が面白かったのか不明です。でも時間を持て余していた昭和の子どもはそれを2個3個と作っては遊んでいたものです。

そのせいもあって「食用ほおずき」と聞いても甦ってくるのはあの何とも言えない苦味ばかり。しかしイタリアやフランスでは食用の品種のほうが一般的で、しかも「医者要らず」と言われるほどビタミンや鉄分が豊富なフルーツなのだとか。なかでも酒飲みにうれしいイノシトールという抗脂肪肝ビタミンがたっぷりで、肝臓に脂肪がたまるのを防ぐ働きがあるのだとか。ほほう。それはつまり、私に「食べてみよ」と言っているようなものじゃないですか。

まだまだ日本での生産量が少ない食用ほおずき。ですが、ゴールデンベリー、ストロベリートマト、ゴールデンベリーパイナップルなどその品種は多彩。味はというと、他の果物になぞらえたこれらの品種名から推して知るべしなのですが、私が頂いた「ほおずきんちゃん」はどこか柑橘系を思わせる味わい。フランスではチョコレートでコーティングして食べるそうなのですが、ガツンとくる酸味に続いてやってくる濃厚な甘みは確かにチョコに負けません。口に入れてひと齧りした瞬間、目が5割増で開眼。「食べられないなんておかしい」というあの釈然としない思いがスッキリと晴れました。

田舎なれども南部の国は 西も東も金の山

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宇霊羅山の山懐に抱かれ、その内部にある龍泉洞が日本三大鍾乳洞のひとつとして知られる岩手県岩泉町。この町で食用ほおずきの栽培がスタートしたのは10年ほど前のこと。ちなみに「ウレイラ」は、アイヌ語で「霧がかかる」の意。こうしたアイヌ語由来の地名は、青森県、秋田県、岩手県、宮城県北部に今も残っていて、古代の東北に独自の文化圏が広がっていたことが忍ばれます。

さて、食用ほおずき栽培の旗振り役となった早野商店は、合成着色料・保存料・化学調味料を使わない「身体に優しい食品作り」にこだわる地元の老舗企業。BRUTUS「日本一のお取り寄せ」最終案内(2014年2月)に掲載された「ほたての卵のおかず味噌」をご存知の方もいるかもしれませが、つまりそれほどレベルの高い商品企画力と食品加工技術を持つ企業です。 「田舎なれども南部の国は西も東も金の山」という南部牛追い歌の一節が引用されている同社ホームページには、岩泉の豊かな風土を受け継いでいく覚悟が綴られています。その早野商店が栽培指導から携って栽培農家を育て、地場産業として事業化しようとしているのが食用ほおずきなのです。

ジャム、リキュール、アイスといった加工品もシーズンを逃すと入手困難になりますが、とりわけ生果が手に入るのは晩夏から秋の短い収穫期のみ。夏の太陽をいっぱいに浴びたほおずきが、今まさに旬です。

ライター:菊池桂

information

早野商店

WEBサイト
http://i-hayano.jp/
住所
岩手県下閉伊郡岩泉町岩泉字村木18-32
TEL
0194-22-2555
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