WEBでちょい旅 一厘録 ICHIRINROKU

醤油フィナンシェ(熊本県)2013.09.12 /food

雑誌やテレビなどでよく目にする「和スイーツ」という言葉に、「そこは“甘味”じゃだめなのか」「結局どうなりたいんだ君は」と突っ込まずにはいられなかったのだけど、“醤油屋さんの作ったフィナンシェ”に出会って食わず嫌いはよくないなあと反省した。日本人の食欲にガツンと訴えかける「焦がしバター+醤油」の魔力は、どうやらスイーツ方面でも有効のようだ。

フランス伝統菓子meets醤油!

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昔、椎名誠氏がエッセーの中で「そもそもペンションが“洋風民宿”という意味合いだったのに“和風ペンション”とは、間抜けの行ったり来たりである」と突っ込んでおられたが、実は同じような思いを「和スイーツ」に対して抱いていた。もちろんこの言葉が「和菓子の素材を取り入れた洋菓子」というニュアンスで使われていることは分かっていても、粒あんをトッピングしたり抹茶を練り込んでみたり、みたらし風に甘じょっぱくしたり、というのを見ると、どうしても「和菓子食えよ」と思ってしまうのだ。

醤油を使ったスイーツも、パイやマカロン、ソフトクリームなどさまざまなものが登場している。熊本県の濵田醤油が作る「醤油フィナンシェ」もその一つ。
フィナンシェといえばブール・ノワゼット、つまりバター(beurre)をヘーゼルナッツ(noisette)のような色になるまで熱したソースが特徴。要するに焦がしバターソースだ。焦がしバターと聞けばステーキやムニエル、ホタテやキノコなんかにまとわせて、仕上げに醤油をちょろっと回し掛け…といきたくなるところ。バター醤油。なんてすてきな響きだろう。この組み合わせを最初に考えた人に「ノーベル○○醤油賞」をあげたい(過去にはにんにく醤油、マヨ醤油などが受賞)。

確かにバターと醤油は合うけどスイーツにはどうかなあ、と固い頭で若干の不安を抱えながら、その名の通り生地に醤油パウダーをブレンドしたというフィナンシェを食べてみた。個包装を開けるとアーモンドパウダーとバターのいい香りがふわっと広がる。口溶けはしっとり、表面にちりばめられたケシの実のプチプチとした食感のアクセントが楽しい。醤油は思っていたほど“和”を前面に出すことはなく、それでいて北海道産バターの豊かな風味に負けない香ばしさで存在感をしっかり主張してくる。いい仕事をするじゃないか、醤油。

伝統の味わいを進化させるチャレンジ精神

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醤油フィナンシェを作る濱田醤油の前身は、文政元(1818)年創業の穀物商「浜屋」。かつては海運物資の集散地として栄えた商人の街・熊本市小島町(現・熊本市西区小島)で、そばを流れる白川を船で遡上し熊本城下まで米や麦、大豆を運んでいた。その商材を使い明治20(1887)年に醤油を作り始めたのが、醤油メーカーとしてのスタートだとか。

江戸後期から明治・大正・昭和を通じて建てられた店舗や蔵、洋館、煙突など、熊本における醸造史を物語る貴重な9つの建造物は国の登録有形文化財にもなっている。一方で、温醸庫(もろみを熟成させる蔵)をモダンなカフェに改装するなど、古いものを守りながらもそこに新たな価値を持たせる試みも行っている。

日々多様化する日本食に対応し醤油も進化していくべきと考え、さまざまな楽しみ方を提案する同社。商品ラインナップも伝統的な醤油に加えて、カレーや焼き餅、卵かけご飯、馬刺しなど料理に合わせた専用醤油、さらにフィナンシェをはじめ饅頭や黒豆入りジュレなど醤油を使ったスイーツを取りそろえている。
醤油の可能性を広げるために、培ってきた伝統は受け継ぎつつ常に新しいことに挑戦し、昔ながらの味わいを新しい技術とアイデアで生まれ変わらせる。そんな進取の気性が生んだ進化系フィナンシェは、予想外のおいしさだった。和スイーツ、ありでした。

ライター:和泉朋樹

information

濱田醤油

WEBサイト
http://www.syoyu.co.jp/
住所
熊本市西区小島6丁目9-1
TEL
096-329-7111(代表)
FAX
096-329-1213
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