WEBでちょい旅 一厘録 ICHIRINROKU

あけがらし(山形県)2013.08.20 /food

「ご飯の供(お供)」より「ご飯の友」のほうがいい。供が「これ、わし(ご飯)をおいしくせい」「ははーっ!」という主従関係なら、友はあくまで対等だ。何というか、お互いに主張しつつ尊重し合い、刺激を受けながら高め合う関係。後半は熱愛発覚した芸能人の事務所がFAXで出すコメントみたいになったが、とにかくご飯をおいしく食べるための補佐ではなく、むしろそれが食べたいがためにご飯をよそうくらいの強さを感じさせるのだ、友は。

おかわり必至の、どこにもない滋味

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最近お気に入りのご飯の友は、山形県にある寛政元年(1789)創業の山一醤油製造所が作る「あけがらし」だ。類似する食品がないので一般名称で説明しづらいが、瓶のラベルに書いてある「仕込みからし麹」という表現が分かりやすいかもしれない。見た目はもろみに似ているが、口に入れると最初に麹の甘みが広がり、後からピリリと爽やかな辛みが追い掛けてくる。発酵食品なので時間の経過とともに風味の変化を楽しめるのもお得感がある。製造日から3カ月も経つと辛さはまろやかになり、麹の甘さもより際立ってくる。麹とからし、麻の実、生絞り醤油、唐辛子、三温糖が織りなす複雑で奥深い滋味は、ほかの何にも似ていないオンリーワンのおいしさ。炊きたてアツアツのご飯に乗せてかき込むといくらでもいけそうな気がする。

お酒が好きな人は箸ですくってちびちびと舐めながら、あるいは冷や奴に乗せて楽しむもよし。肉や魚の焼き物にもオールマイティに使える。表面に塗ってしばらくおいてから焼くと、いっそう香ばしくなる。試していないが、カブやジャガイモ、豆などの蒸し野菜にディップとして付けても合うと思う。

醸造家一族のみに伝わる“門外不出・秘伝の味”

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ところでこのあけがらし、江戸の昔からあったものの、実は近年まで市販はされていなかった。作るのにあまりにも手間暇がかかりすぎるためだ。醸造所一族が婚姻などめでたい時にのみ仕込み、家族だけで食してきた門外不出・秘伝の味というわけである。

ところが、店のウェブを担当する次期九代目当主が今は懐かしいパソコン通信の料理フォーラムに参加していた時、オフ会の席にあけがらしを持参し振る舞ったところ、そのおいしさに反響が多数寄せられたという。それならばとフォーラム限定で販売を始め、その後市販されることとなったようだ。
あけがらしという名は大正時代に付いたもの。名付け親は哲学者の谷川徹三氏(谷川俊太郎氏の父)。谷川氏が学生時代、東京の寄宿舎で同室だった七代目当主と酒盛り中にこのからし麹を口にして、落語の演目「明烏(あけがらす)」をもじり「めでたいときに食べるうまいもの」という意味を込め「あけ(開)がらし(芥子)」と命名したのだそう。

山一醤油製造所のウェブサイトでは、あけがらしをはじめ「天然木桶熟成味噌」や熟成期間50年の伝承味噌「超代」、素焼きの大瓶で3年寝かせ仕上げた、当主のそば好きが高じて作ったという「長期熟成本かえし」などが購入できる。さらにインタラクティブ(?)なオリジナルアドベンチャー「古蔵の深部!」や「実録 山一蔵の人々」「風雲!ほにゃらら日記」と題した九代目の妹さんによる漫画など、今となってはものすごく懐かしいにおいのする手作り感あふれるコンテンツが満載。どこから突っ込んで…いや読んでいいか迷うほど。デザインはともかく「訪れた人を楽しませたい」というお店のサービス精神は十分に伝わってくる。こういうサイト、最近めっきり見なくなった。

暑さで食が細りがちなこの時期にオススメの一品、あけがらし。老舗の醤油屋が密かに伝えてきた味を、まずはやっぱり白ご飯で。

ライター:和泉朋樹

information

山一醤油製造所

WEBサイト
http://homepage1.nifty.com/akegarashi/
住所
山形県長井市あら町6-57
TEL/FAX
0238-88-2068
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