WEBでちょい旅 一厘録 ICHIRINROKU

伊勢うどん(三重県)2013.07.30 /food

三重県伊勢市を拠点に活動するクリエイティブユニット「EMELON」が、式年遷宮を祝してプロデュースしたおしゃれな「伊勢うどん」を発見しました。コシはおそらくうどん界最弱クラス。讃岐や稲庭と対極を成す柔らかさ。「伊勢うどん」を初めて食べたときの偽らざる感想は「や、柔っ!」。あの戸惑いを思い出しながらも、清らかで、それでいて茶目っ気たっぷりのパッケージデザインに惹かれ、人生2度目の「伊勢うどん」体験をしてみることに。

超ヤワ極太麺にからまる濃ゆーいタレ

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その名の通り、伊勢神宮周辺の名物である「伊勢うどん」。その特徴は、「こ、これはなにか手違いでもあったか」と思ってしまうくらいのコシの無さ。無類の柔らかさを誇るこの麺の太さは普通のうどんの2~3倍。はたまた「黒っ!」と驚く濃いタレ。どこをとってもかなり独自のスタイルです。
そのルーツは、味噌造りの桶底にたまる「たまり」を添えてうどんを食べていた昔の庶民の食べ方にあるようです。一説によると、お伊勢参りが一大ブームとなった江戸時代、それを浦田町橋本屋が食べやすくアレンジして「素うどん」として参詣客に供するようになったのだとか。江戸から伊勢まで、当時は片道15泊かかったそうですから、道中の疲れが胃腸にも響いてくる頃に伊勢に到着するわけです。当然、路銀の残額も気になり始めます。そんな旅人にやさしいファーストフードだったというわけです。柔らかいうどんを啜りながら、「とうとうお伊勢さんに来たんだなあ」とほっと安堵する旅人の姿が忍ばれます。

現代の「伊勢うどん」のタレは醤油ベース。茹でたうどんを器に盛り、ちょっと汚らしく見えるくらいまでこのタレと葱を混ぜ混ぜ。麺が茶色く色づいてきたところをチュルルンっ。「うわ、やっぱ柔っ!」とあの衝撃が蘇ってきました。しかし人生2度目の今回は、タレが甘過ぎず私好み。うどんに絡んだときの味の濃さが絶妙でした。

地元出身ならではの視座を生かしたデザイン

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伊勢神宮は今年、式年遷宮という20年に一度の大祭の年を迎えています。私が今回食べた伊勢うどんは、伊勢出身の二人によるクリエイティブユニット「EMELON」が、遷宮イヤーを記念して企画したもの。うどん3玉と伊勢うどんの食べ方を解説する小冊子が、本棚に収納できるようにデザインされたパッケージの中に収まっています。白いケースに掛かった白い帯には、決して饒舌ではないけれど、ストイック過ぎもしない「Ise Udon」のタイポグラフィ。伊勢の厳かな空気までもが伝わってくるようです。

アーティストの中谷武司さんと、地元でカフェ兼ワインバーを開いていた料理好きの橋本ゆきさんが、「伊勢を楽しく」という思いのもとに「EMELON」をスタートしたのは2002年頃。
Facebookでの情報発信を始めた昨年、当時をこんなふうに述懐しています。
「河崎にて珠家の開店とともに漠然とスタートしたデザインで何か興そうという特別な目的も無い朧げなものでした。名前の由来は、エメロン・シャンプーのそれで、何か汚れたヘアーを洗い流してサッパリさせようみたいな簡単で考えなしな文脈。」

しかしその後の「EMELON」は、「漠然」と「朧げ」にスタートしたとは思えないほどの躍進を遂げます。伊勢丹のバイヤーの目にとまった「サトナカ」というクッキーをはじめ、その企画に通底しているのは、伊勢の歴史や地理をバックグラウンドとするデザイン。「そんなのローカルビジネスの鉄則でしょ」と言われるかもしれませんが、「EMELON」の場合のそれは時として個人的な体験や感傷さえも入り混じった、彼らの眼差しでしか捉えられない「伊勢」がモチーフになっています。そしてそのバックグラウンドを饒舌に語るデザインにしてしまうのではなく、デザインは単にアウトプットと割り切っている感があります。だから地方のお土産にありがちな押し付けがましさがそこにはありません。でも、分かち合おうとしているものがあることは明確に伝わってきます。そして「EMELON」のような活動を包容する伊勢という土地にもまた一層の魅力を覚えるのでした。お伊勢参り、私もいつか行きたいな。

ライター:菊池桂

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